目次
お客様プロフィール

小川 悠介 氏
りそな銀行
法人部
ベンチャー支援グループ グループリーダー

東 大祐 氏
りそな銀行
法人部
ベンチャー支援グループ
本質的な変革を進めるための課題——「金融+」が問いかけるもの
「金融+で、未来をプラスに。」をパーパスに掲げるりそなグループ。金融という主軸を活かしながら、従業員一人ひとりの強みや関心を掛け合わせて、顧客課題を解決する。そうした意志が、このフレーズに込められている。金融に“+”するものは固定観念にとらわれない個々人の自由な発想も非常に重要であり、金融という世界にとどまらない解決アプローチを模索していくことが望まれている。
しかし、このパーパスに描かれる理想と現場の実態にはギャップがあった。りそな銀行 法人・プレミア戦略部 ベンチャー支援グループの小川氏は、法人営業において見失いがちな視点に言及する。顧客が求めているのは企業・事業の成長であり、融資そのものではない。資金は、あくまで成長のために必要な、いわば血液のようなものなのだ、と。この前提を見誤ると、融資のことだけを考えたプロダクトアウトの提案になってしまう。
プロダクトアウトではなく、ソリューションを起点にした提案に切り替えなければならない。課題は明確だった。しかし、現場で即戦力として使える融資以外のソリューションの選択肢があまりにも乏しい。かといって銀行全体の多様なソリューションのすべてを把握しようとすると、提案までのプロセスが長い。提供できるソリューションの全貌を把握し、そのうち取引先にマッチするものを選んで整理しなければならない。いかに早く、かつ深い提案ができるか。提案の本質的な改革が進まない背景には、金融機関特有の葛藤があった。
加えて、構造的な問題もある。ビジネスマッチングはよく言えば職人技だが、言い方を変えれば属人的な営みである。優秀な従業員が企業同士のマッチングに勝機を見出すある種の直感は、顧客理解によって培われた大きな財産と言えるだろう。しかし従業員は数年単位で異動する。経験値という財産は、現時点では他者に引き継がれることなく失われてしまっている。小川氏は長年本部に在籍し、蓄積されないナレッジに対するもどかしさを感じていた。

価値ある提案を生み出す営業・コンサル向けAI 「TAILOR WORKS」との出会い
こうした現状を変える転機は、りそなグループ傘下のベンチャーキャピタルであるりそなキャピタルからの紹介によって訪れた。あいにくその時点ではりそなキャピタルからの投資には至らなかったものの、小川氏が所属するベンチャー支援グループがやろうとしていることにフィットするのではないか? そうやって紹介されたのが、営業・コンサル支援AI「TAILOR WORKS」だった。
TAILOR WORKSは、「世界を変えるつながりを創る」をミッションに掲げる株式会社テイラーワークスが提供する、営業・コンサルティング業務を支援するAIエージェントを提供している。企業情報や顧客データをもとにAIが情報収集・整理を行い、顧客課題の推察や提案内容の生成、さらには企業同士のマッチングや共創アイデアの創出までを支援する。リサーチから商談準備までのプロセスを効率化・高度化することで、担当者の顧客理解と提案力の向上を後押しし、価値ある提案を生み出せる組織づくりに貢献するサービスである。
TAILOR WORKSに対するチームの反応は分かれた。導入までは至らないだろうという消極的な意見が出る一方、オープンイノベーションの取り組みに活用できるのではないかと直感した担当者もいた。その担当者の熱い働きかけがきっかけとなり、PoCが始まった。小川氏自身も、初めてTAILOR WORKSのUI/UXに触れた瞬間、その手応えを今でも覚えているという。
日々のビジネスマッチング業務において、自身がスタートアップ支援に特化しているからこそ、小川氏はエッジの効いた商材や技術を見つけることはできていた。しかし問題はその先で、スタートアップ各社のサービスやツールの価値を社内外に伝え、理解を得ることに困難があった。TAILOR WORKSのUI/UXは非常にわかりやすく、理解の壁を越える一筋の光を感じられた。

導入を後押しした「ハードルの低さ」と「評価設計」
PoCから本格導入に至るまでの道のりで、TAILOR WORKSの特徴が際立った点がある。導入ハードルの低さだ。多くのAIソリューションは、自社データを全て提供する事前準備や、高額な初期投資が発生する。結果として、提供サービスの質とは関係なく、導入ハードルが要因となって成約に至らないケースが少なくない。
小川氏はベンチャー支援を通じて数多くのサービスを見てきた経験から、この構造的な問題をよく理解していた。TAILOR WORKSは公開情報だけで使い始めることができ、事前に自社で準備すべきことがほとんどない。「まず使ってみる」ことのできる設計は、社内への説明しやすさにも直結した。
一方で、本格導入に向けた社内調整には別の壁があった。生成AIを活用したサービスである以上、仕組み、データの流れ、リスクの所在を社内の関連部署やリスク部門に説明しなければならない。この過程で中心的な役割を担ったのが、りそな銀行でTAILOR WORKSの導入推進役となった東氏である。
大阪拠点でベンチャー支援の企画を担当する東氏は、導入推進の実務を小川氏とともに進めた。課題は明確だったため、サービスの価値を伝えることには苦労しなかった。しかし、生成AIの仕組みやデータフローの説明には相当な労力を要したという。
東氏はテイラーワークス側との継続的なやり取りを通じて、Webの基礎的な部分から知識を深め、生成AI関連の理解を着実に積み上げていった。その学習が、関連各部署への説明における具体性と説得力につながった。
このほかに、導入の費用対効果をどう示すかという問題もある。小川氏はAIツールのROI評価を「効率化」と「付加価値向上」の2軸で整理した。効率化だけで見れば、削減の対象となるのは担当者の人件費となり、変化が見えづらい。重要なのは付加価値であると理解していた。
オープンイノベーションは成果が出るまでの足が長く、直接的に成約と結びつけにくい。そこで導入過程のすべてを言語化・可視化し、どこにどのような付加価値があったかを定性・定量の両面で定義した。将来性を全体的に見渡してから整理するプロセスを経て、ROIが一定以上に上がることが見えた。こうした事前準備が結実し、導入の後押しとなったのである。
8時間が半分以下に——現場で起きた変化
では、TAILOR WORKSは現場の業務をどう変えたのか。東氏の主な活用シーンは、オープンイノベーションの提案書作成である。
支店から「この企業に提案したい」と依頼が来ると、これまで東氏は決算資料から課題や戦略を抽出し、注力ポイントを自ら読み解いていた。リサーチの開始から、企業のホームページや決算資料に散在する課題を読み解き、構造化し、協業案に落とし込むまで、1社あたりの所要時間は約8時間。丸一日がかりの作業である。
この一連の作業に、大きな変化が生まれた。
TAILOR WORKSに提案先の企業情報を登録すると、その企業に存在する課題が整理された状態で表示される。加えて情報収集元のリンクも提示されるため、そこから深掘りを始められる。リサーチにかかる所要時間は半分以下に短縮された。1から10まで手作業で進めていた情報収集とその情報の構造化のプロセスが、大幅に圧縮されたのだ。余白となった時間は、より多くの顧客に対応する時間に充てることができる。提案における質と量、双方の改善につながる変化が導入後すぐに実感できた。
効果が最も劇的にあらわれたのは、2025年12月に開催された「Resona Future Summit 2025」でのこと。オープンイノベーションや売り込みの機会として多数の企業が集まるこのイベントで、東氏はTAILOR WORKSを使った即興マッチングの実施を提案した。
当初の想定は控えめだった。イベント会場で待ち時間待機中の企業に声をかけ、その場でマッチングさせて、手持ち無沙汰な人たちを楽しませる程度の意図からスタートした。しかし、実際に相談に来た企業の情報を画面上で一緒に見ながらマッチングを行うと、その反応は予想を大きく上回った。
企業の課題分析とマッチング提案がその場で即座に生成されるスピードと精度に、来場企業が驚きの声を上げた。さらに印象的だったのは、協業案の提示にとどまらず、来場企業自身が「自分たちにはこんな課題があったのか」と気づかされるケースが生まれたことである。TAILOR WORKSが提供する情報は、単なるマッチングを超え、顧客の自己理解を深めるツールとしても機能したのである。
東氏自身の変化も見逃せない。TAILOR WORKSが生成する情報を目的に沿って選択し、自分の言葉で顧客に届けることで、自信を持って会話ができたという。TAILOR WORKSの画面をそのまま表示し、AIが出す提案内容やリスク情報を相互に確認しつつ、対話を深める。その精度に対する確信があるからこそ、画面を見せることに対する心理的なハードルも低い。この使い方は、初回面談や営業初期フェーズの顧客理解と仮説構築に特に有効だと東氏は見ている。


他部署展開では導入プロセスも共有し、判断を委ねた
TAILOR WORKSの活用は、法人・プレミア戦略部にとどまらず、複数部署への展開が進んでいる。大企業のパートナー戦略やM&Aを扱うソリューションビジネス部もその一つだ。
もともと法人・プレミア戦略部と同じ部署から枝分かれした経緯があり、マッチメイキングという業務の性質が共通していたことが、横展開の土台となった。ソリューションビジネス部と法人・プレミア戦略部は定期的にミーティングを続けており、情報共有の場を維持してきたことも横展開につながった要因として大きい。
注目すべきは、展開にあたって小川氏が意識していたアプローチである。ツールの機能や魅力を伝えるだけではなく、「どうやって導入するか」「社内のリスク整理をどう進めたか」「費用対効果をどう説明したか」といった、導入プロセスのノウハウもセットで共有したのだ。
自分たちが苦労した部分を隠さず全て教える。他部署も同様の壁にぶつかることが分かっているのだから、先に整理した情報はすべて渡せばいい。そうすれば、相手から「かゆいところに手が届く」と感じてもらえる。この信頼関係の構築が、社内展開を加速させた要因だと小川氏は振り返る。
一方、機能性のアピールにおいては、説明よりも実物を見せることに注力した。「とにかく見てください」と、小川氏は繰り返したという。実際にTAILOR WORKSのデモを見せると、ほぼ全員が「面白い」「これはいい」と反応した。
人が気になることを素直にそのまま出してくるUI/UX。公開情報自体は他のサービスでも得られるが、情報の表示順やボタン配置が「こういう順番で見たいよね」という営業担当者の感覚に沿っている。その心地よさは、説明するよりも体験してもらうほうがはるかに早い。
逆に言えば、それでも魅力を感じない部署にまで、無理に導入を迫る必要はないと考えていた。「最大限の情報を渡すから、それをちゃんと見て判断してほしい。自分たちとではなく、テイラーワークスと直接話してほしい」。このスタンスが、結果的に他部署における自発的な導入意欲を引き出している。
裾野を広げ、AI活用の付加価値をさらに高めていく
りそな銀行とTAILOR WORKSにおける今後の展望について、小川氏は明確な方針を示す。AIを使ったROI向上のもう一つの軸は、できる限り多くの従業員がツールを使うことだ。付加価値向上の効果は、1人の効果より100人の効果のほうが圧倒的に大きい。
AIは労働集約型のビジネスでも仕入れ型のビジネスでもない。裾野を広げることこそがAI活用の本質であり、TAILOR WORKSを含むAIツールの社内浸透を重要視しているという。ただし、浸透させるだけでは不十分だ。使った結果が顧客にとっての価値につながるよう、戦略と目的を明確にせねばならない。
りそな銀行は、これまでも社内業務におけるAI活用を進めてきた実績がある。しかし、それはあくまで従業員が自分たちの業務に使うためのAIだった。法人顧客に向けた提案活動の中でAIをどう活かすか。その問いに対する答えは、テイラーワークスとの対話を通じて今まさに同時並行で作られている最中である。
りそな銀行が取り組む法人営業変革、ソリューション営業への転換を、他の地域金融機関が取り組む際、どこから始めるべきか。この問いに対する小川氏の答えは至極シンプルなものだった。それは、「お客さまの声を聞くこと」だ。
顧客は銀行のポテンシャルの高さに対して、実は大きな期待を寄せている。しかし、プロダクトアウト型の提案では、営業担当者が「何かしてほしいことはありますか? 銀行に期待することは?」とニーズを聞いても、「何もない」と返されてしまう。
ならば自分たち銀行側の取り組みや目指す姿、パーパスを伝え、顧客が真に何を求めているかを深く聞くことができれば、「私たちのこの課題を解決してほしい」という声も出てくるはずだ。その課題を社内ソリューションだけで解決できないことがわかったとき、初めて必要性に迫られた改革の時が訪れる。顧客との間に長年積み上げてきた信頼と期待。ここを起点に、新しい提案の形と顧客課題解決への道が拓かれていくと小川氏は展望する。
りそなグループが掲げる「金融+」の“+”の中身には、まだまだ可能性の余地が広がっている。TAILOR WORKSという新たな武器を手にした現場では、まっさらな“+”を満たすための変化が、少しずつ起こり始めている。